ランニング・フォーミュラ

ダニエルズのランニング・フォーミュラにおけるトレーニングの基本原理

running_factory_akirunner

この記事は、前回の記事「ダニエルズのランニング・フォーミュラとは?」の続きです。前回は、ダニエルズのランニング・フォーミュラの概要やその基本的なコンセプトについて紹介しました。今回は、この理論に基づいたトレーニングの基本原理についてさらに詳しく解説していきます。

ランニングは、ある程度のレベルまではただ走り続けるだけで到達することができますが、トレーニングの原理を詳しく理解することで、より効率的にトレーニングを行えるだけでなく、怪我のリスクを軽減することにもつながります。

トレーニングにおける体への負担とその効果を常に意識するようになることで、より賢いアプローチで取り組むことができるのです。

知識というものは、一度理解してしまえば、いつでもそれを活用できるものです。
(忘れちゃうことはありますが、初回よりは理解が早い)

さらに、その知識が起点となり、別の関連知識への興味が湧くというメリットもあります。初めは理解が難しいと感じるかもしれませんが、トレーニングを行いながら繰り返しダニエルズのランニング・フォーミュラを読み、実践することで、その内容はあなたの血肉となり、次第に自然に身に付いていくでしょう。

AD

ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第4版について

現在、「ダニエルズのランニング・フォーミュラ」の第4版が出版されています。この新版では、これまでの版と比べて、内容がより充実しており、特に文字の見やすさが向上しています。また、トライアスロンウルトラマラソンといったランニング以外の種目も追加され、より幅広いアスリートに向けた情報が網羅されています。

第3版では主にランナーを対象とした内容でしたが、第4版では長距離レースに挑戦するランナーだけでなく、異なる競技のアスリートにも有益な情報が含まれています。さらに、この第4版はAmazonで購入可能で、Kindle版も発売されているため、電子書籍としていつでも手軽にアクセスできる点が魅力です。


トレーニングの基本原理

ダニエルズのランニング・フォーミュラは、効率的かつ効果的なトレーニングを行うための基本原理に基づいて設計されています。この原理に従ってトレーニングを行うことで、パフォーマンスを最大限に引き出すことができ、怪我のリスクも軽減されます。以下に、ダニエルズが提唱するトレーニングの基本原理を詳しく説明します。


トレーニングは個々の能力に応じて調整されるべき

ダニエルズ博士は、ランナーがそれぞれ異なる体力や経験を持っているため、すべての人に同じトレーニングを適用するのは適切ではないとしています。トレーニングの強度や量は、各ランナーの能力や目標に応じて調整されるべきです。これを実現するために、VDOTという指標が導入されました。

VDOT とは?

VDOTは、ジャック・ダニエルズ博士が提唱した、ランナーの持久力とパフォーマンスを数値化した指標です。VDOTは、ランナーが行ったレース結果やトレーニングパフォーマンスから計算され、単なる最大酸素摂取量(VO₂max)ではなく、現実のパフォーマンスに基づいています。

VDOTの利点

  • ランナー個々の能力に基づいてトレーニングペースを正確に決定できる。
  • トレーニングゾーン(Eペース、Tペース、Iペースなど)を設定し、効率的にトレーニングを行える。
  • オーバートレーニングを防ぎ、適切な負荷をかけることで怪我のリスクを軽減できる。

例えば、Eペース(イージーペース)はリカバリーを目的とした低強度のトレーニングペース、Tペース(閾値ペース)は乳酸閾値を超えないギリギリのペース、そしてIペース(インターバルペース)は最大酸素摂取量に近いペースでのトレーニングを意味します。VDOTは、これらのトレーニングペースを科学的に決定する基準となります。

適度な刺激と回復のバランス

トレーニングにおいて、体に適度な刺激を与えることと、十分な回復時間を確保することのバランスが非常に重要です。過剰なトレーニングは怪我や疲労の原因となり、逆に刺激が少なすぎるとトレーニング効果が得られません。VDOTを用いたトレーニングでは、これらのバランスを取りながら、ランナーが持つ能力を最大限に引き出します。

ダニエルズは、トレーニングの種類(持久力、スピード、インターバルなど)と量を適切に配分することで、無駄なく着実にパフォーマンスを向上させることができると説いています。


継続的な評価と調整

トレーニングプランは固定されたものではなく、定期的に評価と調整が必要です。VDOTの数値は、トレーニングやレース結果に応じて変動するため、それに合わせてトレーニング内容を調整していくことが重要です。これにより、ランナーは常に適切な負荷でトレーニングを行い、無理なく長期的に成長を続けることができます。

トレーニングの基本原理の詳細

ダニエルズのランニング・フォーミュラでは、ランニングを効率よく行い、最大限の効果を得るための4つのトレーニングゾーンが設定されています。それぞれのゾーンがランナーの異なる能力を強化するために特化しており、これらを組み合わせることで、総合的なパフォーマンス向上が可能になります。

持久力とランニング経済性の向上

ランニングにおいて最も基礎となる要素は持久力です。ダニエルズのフォーミュラでは、持久力を鍛えるためにEペース(イージーペース)でのランニングが推奨されています。このペースは低強度で、長時間走ることができるため、体への負担が少なく、酸素を効果的に使用する能力を高めます。

Eペースでのトレーニングを継続することで、ランニング経済性が向上し、少ないエネルギーで効率的に走る能力が身につきます。これにより、疲労しにくい体を作り上げることができます。

Eペースは、ランニング初心者から上級者まで、幅広いレベルのランナーにとって非常に効果的です。このペースでのトレーニングは、怪我のリスクを抑えつつ、安全に走行距離を増やすことができるため、特にマラソンなどの長距離レースに向けては非常に重要です。

また、これから紹介するトレーニングの距離は週間走行距離に基づいており、ハードなトレーニングを行うためのキャパシティを増やす基盤となります。つまり、ハードなトレーニングを実施したいのであれば、普段からしっかりとした基礎トレーニングを行うことが大切です。

乳酸閾値(LT)の向上

乳酸閾値(Lactate Threshold, LT)は、運動中に体が生成する乳酸を処理できる最大の能力を示す指標であり、ランナーにとって重要な要素です。LTが高いランナーは、より高いペースで長時間走ることができ、レースでも持久力を発揮できます。

ダニエルズのフォーミュラでは、この乳酸閾値を向上させるためにTペース(閾値ペース)でのトレーニングが推奨されています。Tペースは、適度な強度であり、キツすぎず、比較的心地よく感じるペースです。このペースでは乳酸の生成と除去がバランスよく行われ、乳酸が溜まりすぎないため、長く持続可能です。

ダニエルズ博士によると、トレーニングのピーク時に1時間持続できるペースがTペースに相当します。トレーニングでは通常、20分程度の連続疾走が一般的ですが、これを分割したクルーズインターバルも効果的です。20分の連続疾走が負担に感じる場合は、1.6km、3.2km、4.8kmなどに分けて実施するのも有効です。

Tペースでのトレーニングでは、週間走行距離の10%を超えない距離で行うことが推奨されます。例えば、週に70km走るランナーであれば、Tペースでのトレーニングは7kmが理想的です。このペースでのトレーニングは、速く長く走る能力を向上させ、レースにおいてペースを維持する力を強化します。

Tペースランニングを定期的に行うことで、疲労感を最小限に抑えながら、スピードと持久力を向上させることができます。

最大酸素摂取量(V̇O2max)の強化

V̇O2maxは、運動中に体が使用できる最大酸素量を示し、持久力の指標として広く用いられています。簡単に言えば、体がどれだけ効率的に酸素をエネルギーに変換し、運動を持続できるかを表すものです。しかし、酸素が十分に供給されても、その酸素を効率よくエネルギーとして利用できなければ意味がありません。V̇O2maxの向上は、同じ時間内に多くの酸素をエネルギーに変換し、速く走るための重要な要素の一つとなります。

このV̇O2maxを効果的に向上させるために、ダニエルズのフォーミュラではIペース(インターバルペース)でのトレーニングを導入しています。Iペーストレーニングは、非常に高い強度で行われ、短時間の疾走を繰り返す形式です。たとえば、1000m×5本が一般的で、このインターバルトレーニングの目的は、V̇O2maxのペースでなるべく長く走り続けることにあります。

ダニエルズ博士によれば、人間はV̇O2maxペースで最大12分間走り続けることが可能です。しかし、12分間この強度で走り続けるのは体力的・精神的に非常に負担が大きいため、その負担を軽減するためにトレーニングを複数に分割して行います。これがインターバルトレーニングの基本原理です。1本ごとの疾走と休息を交互に行うことで、効率的に体を鍛えることが可能になります。

たとえば、Iペースが3:30/kmのランナーの場合、1000mを3分30秒で走るのが適切です。この際、酸素借(oxygen debt)という現象も重要な要素です。Iペースで走り出すとすぐにV̇O2maxの状態になるわけではなく、最初の1~2分間は他のエネルギー供給システム(ATP-CP系や解糖系)がメインで使われます。しかし、時間が経つにつれてこれらのシステムのエネルギー供給は限界に達し、その後酸素を使ったエネルギー供給が主となるのです。つまり、たとえ3:30の疾走であっても、その一部の時間は酸素を利用していないエネルギーシステムを使用しているため、酸素借が生じ、後半になって酸素をより効率的に使う状態に移行します。

休息に関しても重要なポイントがあります。休息が長すぎると、体が再びV̇O2maxの状態に到達するまでに時間がかかり、トレーニングの効果が半減してしまいます。適切な休息は疾走時間以下に設定するのが理想です。たとえば、1000mを3:30で走った場合、休息時間は最大でも3分30秒までに抑えるべきです。

このトレーニングは心肺機能を強化し、酸素を効率的に取り入れてエネルギーに変換する能力を高め、より速いペースで長く走るための基礎を築くことができます。また、このようなIペーストレーニングは、レースでのパフォーマンス向上にも直結するため、特に持久力を重視するランナーには欠かせないトレーニングです。

酸素借とは、運動開始時に必要な酸素量に対して、供給が追いつかない状態を指します。最初の数分間は酸素供給が十分でないため、解糖系(無酸素的エネルギー供給)によってエネルギーを賄います。しかし、運動を続けることで徐々に酸素の供給が追いつき、エネルギー供給の大部分が酸素を使用した有酸素系に移行します。酸素借が解消されることで、V̇O2maxの状態に到達し、効率的に酸素を使ったエネルギー供給が始まるのです。この過程を理解し、適切な時間と休息を組み合わせることで、より効果的なIペーストレーニングを行うことができます。

このようなインターバルトレーニングは、ダニエルズのフォーミュラに基づいたプログラムと、低酸素トレーニングを組み合わせることでさらに効果を高めることができます。低酸素トレーニングは、体が少ない酸素環境でも効率的に酸素を利用する能力を高め、V̇O2maxの向上に寄与します。この二つを併用することで、より高い持久力とスピードの両方を獲得できるでしょう。

スピードと反応力の向上

ダニエルズのフォーミュラでは、Rペース(レペティションペース)でのトレーニングが非常に重要な位置を占めています。これは特にスピードと反応力を向上させるためのトレーニングであり、スプリント力や脚の瞬発力を鍛えます。

Rペーストレーニングは、ランニングエコノミーを向上させるためにも効果的です。無駄な動きを減らし、体が前進するための力により多くのエネルギーを使えるようになります。

また、レース終盤にスピードを維持し、ラストスパートをかけるための力も養うことができます。これにより、体が疲れてきたときでも、効率的に力を発揮し続けることができるようになるのです。

私の印象では、市民ランナーの多くがスピード練習、つまりRペーストレーニングをあまり実践していないように感じます。

ジョギング(Eペース)、ペース走(Tペース)、インターバル(Iペース)などは一般的に行われていますが、Rペースを取り入れることで、ランニングエコノミーやスピードの向上に繋がります。

Rペーストレーニングは、短い距離を高強度で繰り返し行うもので、筋力や神経系の反応を鍛え、より速いペースに適応する能力を高めます。

特にトラック競技や短距離レースに挑戦するランナーにとっては非常に効果的です。また、Rペースは100%のダッシュではなく、200mから400m程度の距離を繰り返し走るものです。

疾走時間の2~3倍の休息を取りながら行うため、体がリフレッシュする時間も確保できます。

スピードを出すことで怪我につながるのではないかと心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、適切に休息を取りながら行うことで、そのリスクを最小限に抑えることができます。

また、Rペーストレーニングは、単にスピードを上げるだけでなく、フォームの改善にも大いに役立ちます。

特にトレーニングの終盤では、体が疲れ、思うように動かないことがあるかもしれませんが、そんな時こそ冷静に、良いフォームを保ちながら走ることが重要です。

レペティションでは、常に良いフォームを意識して走ることが大切です。がむしゃらにスピードを出すのではなく、技術的にも効率的に走ることが、結果的に速さやパフォーマンス向上につながります。

低酸素トレーニングとの組み合わせ

ダニエルズのランニング・フォーミュラは、低酸素トレーニングと組み合わせることで、さらにその効果を引き出すことが可能です。

低酸素環境では、体は少ない酸素を最大限に活用するために適応し、酸素の効率的な利用能力が向上します。この状態でダニエルズフォーミュラの各ペーストレーニングを行うことで、酸素摂取量や持久力の向上が加速され、短期間でより高い成果を得られる可能性があります。

特に、VDOTに基づいたトレーニングでは、低酸素環境でのトレーニングが非常に有効です。これにより、トレーニングの負荷が増す一方で、体がその負荷に迅速に適応し、ランニングエコノミーが劇的に向上します。

低酸素トレーニングを活用することで、ランナーは持久力をさらに強化し、レースでのパフォーマンスを最大化することが期待できます。


次回の記事では、ダニエルズのランニング・フォーミュラのトレーニング理論についてさらに深く掘り下げ、科学的根拠や実際のトレーニング計画について解説していきます。

AD
ABOUT ME
キャプテン
キャプテン
AKI RUNNER/RUNNING FACTORY
ランニング系YouTuber(AKIRUNNER), ITエンジニア
RUNNING FACOTRY 開発
趣味はランニング/ロードバイク/鮎釣り/お菓子作り/バイオリン/TESLA
AD
記事URLをコピーしました