低酸素環境化でどのようなトレーニングをするとどのような生理作用が働くのか下記内容をまとめています。
Ⅱ ガイドラインのスポーツ医科学的背景
7 低酸素施設の利用
運動の種類としては下記の3パターンあります。
- 最大運動トレーニング(疲労困憊になるまで運動を続ける)
- インターバルトレーニング(高強度の運動を繰り返す)
- 持久的トレーニング(45分間の低~中強度の運動)
最大運動
トレーニング内容:
- 対象: 健康な男子7名
- 条件: 常圧常酸素環境 vs 常圧低酸素環境(酸素濃度15.0%O2)
- 内容: エルゴメーターにて負荷を1分毎に増加させ、疲労困憊になるまでトレーニングを行った。
トレーニング結果:
- 疲労困憊までの時間:
低酸素環境では、疲労困憊までの時間が常酸素環境に比べ約9分短縮された。
(同じ強度でも体に及ぼす影響が多い)
- 最大酸素摂取量:
低酸素環境で常圧酸素環境に比べ12.5%減少した。
(体に取り込むことができる酸素が少なくなった)
- 血中乳酸濃度:
早期に蓄積がみられ、乳酸濃度の立ちあがりが速い。
(乳酸の発生するタイミングが速い)
血液中の変化:
- 局所骨格筋のヘモグロビン酸素化状態の監視:
- 低酸素環境では、運動時に30%VO2max以上の負荷でヘモグロビンの酸素化の割合が低下。
- 安静時の局所骨格筋の総ヘモグロビン値や酸素化ヘモグロビン値は低酸素環境に入ると上昇。
解糖系への依存率の変化:
- 低酸素環境では、局所骨格筋への酸素供給が低下し、常酸素環境よりも早期に解糖系への依存率が大きくなる。
酸素化状態の変動:
- 運動開始直後に局所骨格筋の酸素ヘモグロビンが増加し、その後運動強度の増加に伴って酸素化ヘモグロビンは低下。
酸素供給の補償機構:
- 血管を拡張して組織への酸素供給の低下を補償するため、安静時には安静状態の局所骨格筋の酸素化ヘモグロビンが上昇。
これらの結果から、低酸素環境での運動により、有酸素的能力の低下や解糖系の活発化が生じ、血液中の酸素化状態にも変動が見られることが示唆されます。
インターバル
単発的で短時間の高強度な運動は、酸素を必要としない無酸素代謝に基づいているため、低酸素環境でも影響がほとんどないと考えられます。
しかし、短時間で高強度な運動を繰り返す間欠的運動においては、有酸素代謝も関与する可能性があることがわかった。
トレーニング内容:
- 対象: 健康な男子8名
- 環境: 常酸素環境(20.9%O2)および低酸素環境(15.0%O2)
- 運動プロトコル: 自転車エルゴメーターを使用し、10秒間の全力ペダリングを170秒の休息を挟んで8セット実施
- 負荷: 各被験者の体重の5.0%
トレーニング結果:
- 心拍数:
両環境で8セット目に最高値を示し、常酸素環境154拍/分、低酸素環境155拍/分で差はない。
- 発揮パワー:
常酸素環境と低酸素環境で差なし(平均518~540W)。
- 血中乳酸濃度・アンモニア濃度:
両環境で差なし。
- 局所骨格筋の酸素化ヘモグロビンの回復時間:
低酸素環境で明らかに遅い。
考察:
低酸素環境下での間欠的運動では、仕事量(発揮パワー)に差は見られないが、回復期においてヘモグロビンの酸素取り込み速度が低下することが明らかになった。
この研究から、低酸素環境下での間欠的な運動においては、一時的なエネルギー発揮には影響がないものの、回復プロセスにおいて酸素取り込みが遅れる可能性が示唆されました。
持久的トレーニングに関する研究成果
普段は通常の環境(常圧常酸素)で生活し、トレーニングを行う時だけ低酸素環境を利用した場合のトレーニング効果となります。
トレーニングは、
- 1. 5日間(1日45分のトレーニング)
- 2. 9日間(1日90分の安静+12~14分のトレーニング)
- 3. 9日間(1日2時間の安静+45分のトレーニング)
1.5日間(1日45分のトレーニング)
実験デザイン:
- 対象: 健康な男子14名
- 環境: 常圧常酸素環境(20.9%O2) vs 常圧低酸素環境(15.0%O2)
- トレーニング: 5日間、65%VO2max、45分間の自転車ペダリング
生理的変化:
- 乳酸濃度の低下:
- 低酸素環境でのトレーニング後、運動中の乳酸濃度が低下。
- 心拍数の調整:
- 初日に比べ、低酸素環境での心拍数が10拍/分高かったが、5日目には同水準(150拍/分)に調整された。
- VO2maxの増加:
- 常圧常酸素環境では11.8%の増加だが、低酸素環境では14.7%とより大きな増加がみられた。
- 運動時間の延長:
結論:
- 1回45分、5日間という短期間トレーニングにおいて、低酸素環境を用いることは持久的な運動能力を向上させる効果があり、以下の点で顕著な変化が見られた:
- 運動中の乳酸濃度の低下
- 心拍数の調整
- VO2maxの増加
- 運動時間の延長
考察:
- 低酸素環境下でのトレーニングが、従来の常酸素トレーニングよりも効果的である可能性が示唆された。
- 細胞や循環系の酸素利用効率の向上が、持久的な運動能力向上に寄与している可能性がある。
2. 9日間(1日90分の安静+12~14分のトレーニング)
トレーニング内容:
- 対象: 20名の大学選手
- 環境: 常圧常酸素環境(20.9%O2) vs 常圧低酸素環境(14.5%O2)
- 検証: それぞれの環境で、90分間の安静後、漸増負荷法で12~14分間の亜最大レベルの自転車運動
生理的変化:
- 低酸素環境では、心拍数が10~20拍/分高くなった。
- 低酸素環境では、血中乳酸濃度は通常酸素に比べて急激に上昇した。
- 常酸素環境では、高強度の運動でもSpO2の著しい低下は生じにくいが、低酸素環境では既に安静時に低下し、運動中に更に低下し、運動後半では85~83%に低下。
結論:
- 低酸素環境下での運動により、動脈血酸素飽和度(SpO2)の低下が進行し、組織への酸素供給不足が発生。
- 運動を続けることで、組織内での低酸素環境に対する適応が生じる可能性がある。
3 .9日間(1日2時間の安静+45分のトレーニング)
トレーニング内容:
- 対象: 成人男子18人
- トレーニング: 14.5%O2の低酸素室で毎日2時間滞在し、9日間連続で65%VO2max負荷の45分間自転車運動。
- コントロール群: 同条件で低酸素環境に2時間滞在。
生理的変化:
- 血液性状への影響:
- トレーニング前後でヘモグロビン、ヘマトクリット、網状赤血球、総タンパクなどに有意な変化なし。造血の変化は見られなかった。
- 最大酸素摂取量と乳酸閾値の向上:
- トレーニング群では最大酸素摂取量と乳酸閾値が有意に向上。
- 動脈血酸素飽和度(SpO2)の改善:
- トレーニング進行に伴い、運動中のSpO2低下の割合が減少。
- 心拍数の低下:
- 低い血中乳酸濃度と代謝変化:
- 運動が進むにつれ、低い水準の血中乳酸濃度と、血糖値の低い利用率。代わりに血中アミノ酸の濃度が上昇し、代謝系に変化が生じた。
注目すべきポイント:
- 低酸素環境でのトレーニングにより筋の緩衝能が増加し、細胞の無気的エネルギー生成が改善。
- アンモニア濃度の上昇は無気的エネルギー代謝の亢進を示唆。
- 低酸素環境で一酸化窒素の生成が促進され、血管の弛緩が期待される。
- トレーニングが進むと、低酸素ストレスに対する自律神経の反応が減少。
結論:
- 低酸素トレーニングは血液性状には影響せず、最大酸素摂取量や乳酸閾値の向上をもたらす。
- 代謝系の変化が示唆され、特にアミノ酸の利用が増加。
応用:
- 低酸素環境でのトレーニングを応用し、体内組織での酸素取り込み能力向上を目指すことが考えられる。
- 低酸素環境でのトレーニングの適切なタイミングと頻度が、持久力や適応の観点から重要である。
まとめ
低酸素環境でのトレーニングは、有酸素的能力と無気的エネルギー生成機序に対する刺激を与え、以下のような効果が期待されます。
有酸素的能力の向上:
- 低酸素環境でのトレーニングにより、有酸素的な運動能力が改善されることが示唆されています。これは、酸素供給の制約を受ける状況でのトレーニングが、持久力を向上させる要因となる可能性があることを示唆しています。
無気的エネルギー生成の改善:
- 低酸素環境では、無気的エネルギー生成の亢進が観察され、筋肉の緩衝能が向上します。これにより、持久的な運動時においても無気的作業能力が改善される可能性があります。
アンモニア濃度の上昇:
- 低酸素環境でのトレーニングにより、アンモニア濃度が上昇することが報告されています。これは無気的エネルギー代謝の亢進を示唆し、トレーニングによる代謝プロセスの変化が起きていることを示しています。
血管の内皮細胞からの一酸化窒素生成:
- 低酸素環境では、血管の内皮細胞から一酸化窒素が生成され、血管の弛緩に寄与するとされています。これにより、血液循環が改善される可能性があります。
自律神経の反応の変化:
- 低酸素環境への適応として、トレーニングが進むにつれて自律神経の反応が減少することが報告されています。これは、身体が低酸素ストレスに適応するプロセスの一環と考えられます。
総じて、低酸素環境を利用したトレーニングは、有酸素的なパフォーマンス向上だけでなく、無気的エネルギー生成や代謝プロセスにもポジティブな影響を与える可能性があります。これは特に持久力や適応力を向上させたいアスリートやトレーニング者にとって有望な手法とされています。
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